ステンレス製セルフクリンチングナットの「難解なファスナー事情」を解説
薄型の金属板にネジ山を設ける実用的な方法が必要になった場合、エンジニアが着目するのがセルフクリンチングファスナーです。このファスナーは、永久的に取付けられ、ハードウェアを削減し、より薄く、より軽い設計を可能にします。しかしステンレスのアプリケーションの場合、エンジニアは難しい選択を迫られることがあります。
あらゆるステンレス製セルフクリンチングファスナーが、あらゆるステンレス製シートで意図したとおりの性能を発揮するというのはよくある誤解です。セルフクリンチングには、ファスナーがシートより高い硬度を持っていることが条件であり、ファスナーとシートの硬度の関係性が大きく影響します。
一般的にセルフクリンチングファスナーの取付けは、適切なサイズのドリルまたはパンチ穴でファスナーを所定の位置に押し込むことによって達成されます。このプロセスは、変位した(ファスナーよりも柔らかい)シート材料がファスナーのシャンクかパイロットの特に設計されていた環状の凹部にコールドフローし、ファスナーを永久に固定します。
ステンレスの硬度は様々で、耐食性も大きく異なるため、意思決定は複雑になる可能性があります。以下は、300系(最もよく使われるステンレスパネル素材)用のステンレスファスナーを選択する際に、作業を容易にするためのガイドラインとハードウェアの基本情報です。
ファスナのー材質: 300系から作られた標準的なステンレス製セルフクリンチングファスナーは、硬度の相対性の問題から、300系ステンレス板では信頼性の高いパフォーマンスを期待することができません。しかし、ロックウェルBスケール(HRB70)の硬度が70以下の金属板(スチール、アルミニウム)であれば、理想のパフォーマンスを発揮することができます。
300系ステンレス板への取付けに適したファスナーには、400系ステンレス製や特殊合金(析出硬化型)ステンレス製のものがあります。これらのファスナーは、HRB88からHRB92の硬度の板材に効果的に使用することができます。
耐食性:析出硬化ステンレス製クリンチファスナーは、医療、食品サービス、流体処理、海洋アプリケーションなどの厳しい環境における用途にも耐えられる非常に高い耐食性を提供します。400系ステンレスタイプは通常、亜鉛メッキ鋼に匹敵する耐食性を提供します。
ファスナーの型式:基本的なコンポーネントの取付け、積み重ね、スペーシング、取付け完了後のアセンブリへのアクセスなど、様々なアプリケーションの要件を満たすため、長年にわたって「ステンレスのためのステンレス」クリンチファスナーが開発されてきました。
今日の市場では、HRB90までの硬度を持つステンレス板に適した析出硬化型のステンレス製セルフクリンチングナットがエンジニアに提供されています。セルフクリンチングナットの中でもさまざまな種類があり、アプリケーションのニーズに応じて選ぶことが可能です。外径寸法を小さくして端に寄せるタイプ、内ネジで相手穴のズレを補正するフローティングタイプ、アセンブリでフラッシュインストールするように設計されたセルフクリンチングナット、薄板への取付けやロック機能付きのバリエーションなどがその例です。
400系を使用したステンレス製セルフクリンチング式貫通穴付スペーサーおよびブラインドスレッドスペーサーは、HRB88までの硬度のステンレス板に使用することができます。長さを変えることで、部品を積み重ねたり、間隔をあけたりすることができます。(このファスナーは、ヘッド部が取付けシートの片面と同一面になるように取付けられ、ブラインドタイプを使用すると、外側のシート表面は平滑で閉じられた状態となります。また、極薄のシートに取付けるためのタイプも開発されています。
従来のステンレス製フラッシュヘッドスタッドは、HRB70以下の金属板への使用を想定して作られています。HRB92までのステンレス板に使用できる新設計の特殊ステンレスセルフクリンチングヘッドスタッドは、非常に高い硬度と耐食性を示し、ステンレス板にフラッシュマウントします。
ステンレス製セルフクリンチングパネルファスナー(400系)は、ステンレスアプリケーション用の次世代「アクセスハードウェア」です。これらのファスナーは完全なスプリング式のアセンブリで、UL1950の「サービスエリアへのアクセス要件」を満たしており、HRB88までのステンレスシートに取付けることができます(0.060"/1.53mmまでの薄さに対応)。キャプティブスクリュー設計により、ハードウェアを最小限に抑え、パーツのゆるみリスクを排除しています。
この他にも、2つの金属部分を永久的に接合できるステンレス製ファスナーや、フラッシュマウントされた1つのピボットポイントとして使用できるように設計されたファスナーなどのイノベーションがあります。
ファスナーの種類は多岐にわたります。エンジニアは最適なステンレス製ソリューションを実現するために、経験豊富なメーカーとパートナーシップを組むことが推奨されます。
Michael J. Rossiはファスナー業界で30年の経験を持つ、PennEngineering®(住所:5190 Old Easton Road, Danboro, PA 18916-1000 USA)のマーケティングサービス・スーパーバイザーです。